好物第1位に「鰻」を序してしまう管理人が、この銀座店を訪れたきっかけは(銀座方面では別の店か日本橋の「野田岩」に行ってしまうことが多かった)永井荷風の「断腸亭日乗」 断腸亭日記巻二十(昭和11年)の2月12日の記述を読んだためなのです。あの2.26事件の2週前に荷風散人58歳は銀座「竹葉亭」に食しているのです。これはこの店に行かずにはいられないと・・・これが最初。
「晴。燈刻尾張町竹葉亭に食して後茶館久邊留に憩ふ。」・・燈刻は燈のともる頃なので夕方。尾張町は銀座4丁目付近。竹葉亭の後はサ店でのんびり・・・荷風の流麗で簡潔な描写は日記でも随所に散りばめられております。日々の日記文章なのでより簡潔です。膨大な戦前から戦後に至る日記「断腸亭日乗」に共通しているのは何を食べたかなどは略してあり、店名さえ書かれておらず「銀座」「浅草」等の場所のみが多いこと。
この「竹葉亭」の3文字も、荷風が2.26事件の前後に何をしていたか調べている時に偶然見つけたもの。
この日記の2月26日には2.26事件のことが取り上げられており、事件当日の何時に都心の雪が降り止んだか・・雪はどのような降り方をしていたか・・の記述もあります。映画で描かれる雪のシーンのリアリティが試されてしまいます。竹葉亭の名はこの箇所だけでなく戦前の各巻に時たま登場してきます。
銀座店は銀座4丁目交差点の三越の南向かい側の超1等地で、しかも地下鉄出口の真ん前。雨の日でも傘いらずで玄関の扉を開けられます。最高の席(人によりますが)は2階(座敷席・靴を脱ぎます)の窓際・・4丁目交差点を見下ろして食事ができます。
竹葉亭HP http://www.unagi-chikuyoutei.co.jp/ginza.html
本店住所 中央区銀座8-14-7
*大阪・曽根崎新地の「竹葉亭」は系列店なのだろうか?HPに紹介されてないし・・西に向かうと左側にある店です(前を通り過ぎただけで入店はしなかった)
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