2013年11月02日

京都 織田作之助が執筆に使った「千切屋別館」

作家・織田作之助は、1946年(昭和21年)1月に笹田和子と再婚(挙式は2月)するが妻方の反目により2月末には破綻してしまう。3月下旬に(織田作は)空襲で焼け野原となった大阪を離れ、仕事場を空襲が限定的で被害の少なかった京都に移す。三高時代(現・京大教養)からの友人・柴野方彦(世界文学社社長)の下鴨の家や、松竹下加茂撮影所(出町柳)の知人方や、老舗旅館・柊屋、鴨涯荘旅館、そして今回ピックアップする千切屋旅館別館などの宿所を転々として執筆する生活に入ってゆく。3月末から後世に評価の高い作品群を連発し始める。「昨日・今日・明日」「アド・バルーン」「注射」「訪問客」「競馬」「神経」「世相」(阿部定事件をモチーフ)「女の橋」「夫婦善哉後日」等々・・・ヒロポンを打ちながら精神を昂揚させて払暁までの執筆を続ける。4月下旬に新聞小説の掲載が開始すると多忙さはピークに達する。4月25日から京都日日新聞夕刊に、京都を舞台にした「それでも私は行く」(7月25日完結)が連載開始。さらに5月24日からは重複して新聞小説「夜光虫」の連載も始まる。
新聞小説「それでも私は行く」は京都・先斗町のお茶屋「桔梗屋(ききょうや)」の美貌の三高生の息子・鶴雄を主人公にして、毎回、目的もなく市中を歩くまわる姿が実在の町名や店名とともに描き出されてゆく。
鶴雄は寺町通の錦ビルにある「世界文学社」(織田作の友人・柴野の会社が登場)をたずねると、偶然そこには「小田策之助」(もちろん織田作本人)と出会う。その作家はこれから書く小説「それでも私は行く」のモデルになってくれと依頼してくる。毎回に渡って知人・友人らが変名で続々登場し、「小田策」もその執筆している「ちぎりや別館」で本人そのままに描かれる。読者は次回はどの町が舞台になって、どの店が出てくるのか楽しみで待ちきれないはず。読者をひきつける術を心得た「織田作ワールド」が展開されるのです。
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小説「それでも私は行く」から「千切屋別館」が登場する場面を抜き出してみました 
<人通りが多いーというより、まるでどうしてこんなに人間がいるのかと、思われるくらい混雑している京極や、寺町通りを横切ると、もうそこは、打って変ったようにひっそりと静まりかえって、いかにも京都らしい家並みが続く蛸薬師通りである。ここは人通りもまばらである。その蛸薬師(たこやくし)の通りを西へ真っ直ぐー御幸町(ごこまち)を越え、麩屋町を過ぎ、富小路を二三軒西へ行くとちぎり家の別館があった。三条通りにあるような、大きな旅館ではない。しかし、町中でありながら、ひっそりとした蛸薬師通りにありそうな、こぢんまりとした小綺麗さの中に、古い格式の匂いを渋く漂わせたこの旅館は、時々鼓の音がする。お能の関係者がよく泊るーといえば、うなずかれるのだが、いかにも鼓の音でも聴えて来そうな旅館である。だから、看板もデカデカと大きくない。看板というより、門標といった方が似合う。竹に「ちぎりや旅館」とつつましく刻んである。その門標の掛った軒下へ、鶴雄を待たせて、宮子は中へはいって行った。>
左写真の左右の通りが蛸薬師通、左端の縦方向が富小路通 正面に見える雰囲気のある木造の建屋が地図で示したK家 千切屋別館はその右の大きなマンションの位置にありました 別館と北側向かいの本館ともに取り壊されてビルに建て替えられてます
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千切屋別館のあった両隣りのA家・K家の佇まいが織田作が表現した<古い格式の匂いを渋く漂わせたこの旅館>とぴったりとマッチング 織田作もこの町並みを見たことだろう
この小説には先述の通り多くの実名の建物・店舗が次々と登場します。冒頭に登場する四条大橋南詰の「東華菜館」、高瀬川沿いのしるこ屋「べにや」、河原町三條の「キャバレー歌舞伎」などなど。次は何処をアップしようかな。つまんねえから辞めたほうがいいか。
 *参考 中京区詳細地図=吉田地図社 「可能性の旗手 織田作之助」現代教養文庫 他
織田作之助リンク
京都 三嶋亭 織田作之助「それでも私は行く」からhttp://zassha.seesaa.net/article/380550110.html
本郷 喫茶店「紫苑」の織田作之助と太宰治http://zassha.seesaa.net/article/381424205.html
大阪 阿倍野 料亭「千とせ」跡 織田作之助http://zassha.seesaa.net/article/382857023.html
大阪 口繩坂 織田作之助「木の都」よりhttp://zassha.seesaa.net/article/381516708.html
京都 書店そろばんや 織田作之助「それでも私は行く」からhttp://zassha.seesaa.net/article/382937234.html
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posted by t.z at 20:55| Comment(0) | 京都kyoto | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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