江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」に触発されたかのような、S坂の中ほどにある(乱歩仕様の)喫茶店で温かいコーヒーを啜りながら、向かい側にあるはずの古本屋を眺めようとしてしまう(窓はあるが外は見えない)。明智小五郎の幼馴染で、官能的で男をひきつける美人の女房が店番でいるかもしれないのだから。
ここは急勾配のD坂ではないし古本屋などあるわけがない、気付くのが遅いのだ。緩く長いS坂の中ほどで、店の名も違っているではないか。ここは「白梅軒」でなく「蘭歩亭」だ。
<<マスターがお客相手に、上野駅際のガード下で起きた陥没事故の話をしていた。お客といっても、近所の馴染みで、繭美(まゆみ)も顔見知りの時計屋のだんなだ。蘭歩亭はフリの客も少なくないけれど、近所のひま人の、ちょっとした溜まり場のようになっていることが多い。客はひとり客ばかり四人いた。>>
あれっ、内田康夫の「上野谷中殺人事件」ではマスターは普通におしゃべりしているが、目の前では店の手伝いの女が大声でオーダーを伝えている。老マスターは耳が遠く、女は更に声を張り上げる。客と会話するはずもなくカウンターの向こうに消えるように座っている。
ここは「白梅軒」でなく「蘭歩亭」でもなく、歩に°が付く喫茶店「乱歩°」だった。
地図の左(西)端に記入した団子坂上の「三人書房」は江戸川乱歩が自宅を兼ねて開業した古書店です ここを舞台にして乱歩の代表作の一篇「D坂の殺人事件」が執筆されました
西ヶ原 作家・内田康夫 生誕地http://zassha.seesaa.net/article/202012896.html
沼津・獅子浜 作家・内田康夫小学校時代疎開地(本能寺)http://zassha.seesaa.net/article/237786553.html
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