2014年01月13日

渋谷 金原ひとみ「蛇にピアス」

金原(かねはら)ひとみ(1983年生)のデビュー作「蛇にピアス」。
「すばる」誌2003年11月号に掲載され、第27回すばる文学賞を受賞。翌2004年1月15日、第130回芥川賞を同作で受賞した。また、同名タイトルで映画化(2008年9月20日全国公開)されている。主演の吉高由里子(ルイ役)は、この作品によって女優としての地位を一挙に確かなものとしている。

「蛇にピアス」集英社文庫版2006年刊より抜粋。
<<スプリットタンていうのは主にマッドな奴らがやる、彼等の言葉で言えば身体改造。
舌にピアスをして、その穴をどんどん拡張していって、残った先端部分をデンタルフロスや釣り糸などで縛り、最後にそこをメスやカミソリで切り離し、スプリットタンを完成させる。と、彼は手順を教えてくれた。ほとんどの人はこのやり方で改造するらしいけど、中にはピアスなしでいきなりメスをいれる人もいるという。大丈夫なの? 舌噛み切ると死ぬんでしょ? つていう質問に、蛇男は淡々と答えた。焼きゴテを当てて止血するんだよ。手っ取り早いけど、さすがに俺はピアス使ったね。
(略)
そして数日後、私はその蛇男ことアマと二人でパンクなDesireに来ていた。その
店は繁華街の外れの地下にあって、入るなり目に飛び込んできたのはもろに女性器がアッ
プの写真。ビラビラの部分にピアスが刺さっていた。他にも、タマにピアスが刺さってい
る写真や、刺青の写真。そんなのが壁に貼ってあった。中に進むと普通のボディピアスや
アクセサリーもあったけど、ムチやぺニスケースまで並べてある。私から言わせてもらえ
ば変態向けの店だった。アマが声を掛けるとカウンターの中から頭がひょこっと現れた。
その頭はスキンヘッドで、つるつるの後頭部に丸くなっている龍が彫ってあった。>>
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<<鏡の前で舌を出して、先端から二センチほどの中心を指さすと、シバさんは慣れた手つ
きで私の舌をコットンで拭き、指さした部分に黒い印を付けた。
「テーブルに顎載せて」私は舌を出したまま言われるままに体を低くした。舌の下にタオルが敷かれ、シバさんがピアッサーにピアスをセットした。私は思わずシバさんの腕をパシバシこづき、首を振った。
「ん? 何?」
「それ12Gじゃないの? いきなりそんなん入れるの?」
「ああ、12だよ。だって舌に16とか18とか入れてる奴いないっしょ。大丈夫だよ」
「14にして。お願い」
 私は必死になって、反対するアマとシバさんを説得した。耳のファーストピアスだって、
いつも14か16だった。シバさんは14のピアスをセットし、もう一度「ここね?」と確認した。
私は軽く頷(うなず)き、拳に力を込めた。すでに手は汗ばんでいて、ぬるぬるした感触が気持
ち悪かった。シバさんはピアッサーを縦にして先端をタオルに押しつけた。そろりと舌をはさみ、
舌の裏に冷たい金属が当たった。
(略)
「みして」
シバさんは私の顔を自分の方に向かせて自分の舌を出してみせた。私は少し涙目になりながら
感覚のない舌を突きだした。
「うーん、オッケーだね。真っ直ぐ入ってるし、位置もばっちり」
「ほんとだ。ルイ、良かったじゃん」
アマが割り込んで来て、私の舌をジロジロ見た。私は舌がじんじんしていて喋るのも億劫だった。
「ルイちゃん、だっけ? 痛いの強いんだね。女の方が耐えられるんだってね、こういうの、
舌とか性器とか、粘膜に開けると失神する人とかいるんだよ」>>
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<<「イッていい?」アマの苦しそうな声がだらしなく宙を舞う。私はうっすら目を開けて、小さく頷(うなず)いた。アマは引き抜くと、私の陰部に放出した。まただ・・・。
「ちょっと、お腹に出してって言ってるじゃない」
「ごめん、ちょっとタイミングが・・・」
アマは申し訳なさそうに言ってティッシュを引き寄せた。アマはいつも私の性器に射精する。
何が嫌って、毛がバリバリになる事。そのまま余韻に浸って寝てしまいたいのに、アマのせいでいつもシャワーを浴びる事になる。
「お腹に出せないんだったらゴム使ってよ」
アマは俯(うつむ)いてもう一度ごめん、と言った。私はティッシュで軽く拭き取ると立ち上がった。
「シャワー、浴びるの?」アマの声があまりに寂しそうで思わず足が止まった。
「浴びる」
「俺も一緒に入っていい?」
思わずいいよ、と言いかけたけど、全裸のまま情けない顔をしているアマを見てバカらしくなった。
「狭い風呂に二人で入るなんて嫌よ」
私はバスタオルを取ると風呂場に入り、鍵を閉めた。洗面台の鏡に向かって舌を出して
みた。舌の先には銀の玉が付いている。これが、スプリットタンへの第一歩だ。一ケ月位
は拡張しないように、とシバさんは言っていた。道は、まだまだ遠い。

「濡れてんの?」
小さく首を縦に振ると、シバさんはまた私を抱き上げ寝台に座らせた。私は無意識に脚を開いていた。
軽い緊張が私を包む。Sの人の相手をする時、いつもこの瞬間私は身を硬くする。何をするか、分からないからだ。浣腸だったらいい、おもちゃもいいし、スパンキングも、アナルもいい。でも、出来るだけ血は見たくない。昔、膣にファイブミニの瓶を入れられ、危うくトンカチで割られそうになった事があった。あと、針とか刺す人も苦手。手首から手の平がじっとりしていて、肩から二の腕にかけては鳥肌が立っていた。シバさんは、物を使う気はないらしく、私はホッとした。シバさんは指を二本入れ、何度かピストンさせるとすぐに引き抜き、汚い物を触ったように私の太股に濡れた指をなすりつけた。シバさんの表情を見て、また濡れていくのが分かった。
「入れて」
そう言うとシバさんは太股でぬぐった指を私の口に押し込み、ロの中をまさぐった。
「まずいか?」
シバさんの言葉に頷くとロから指を引き抜き、そのままマンコに入れ、また口の中に戻し、口の中をまさぐつた。チンピラのロの中を探るアマの姿がフラッシュバックした。
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「お願い、早く入れて」
うっせーな、シバさんはそう吐き捨てて私の髪をつかみ、枕に押しつけた。シバさんは私の腰を高く上げるとマンコに唾を吐き、また指で中をグチャツとかき混ぜるとやっとチンコを入れた。
初めからガンガン奥まで突かれ、私の喘ぎ声は泣き声のように響いた。気づくと本当に涙が流れていた。私は気持ちいいとすぐに涙が出る。満たされていくのが分かった。シバさんは突きながら私の手首を縛っていたベルトを外し、私の手が自由になると勢い良くチンコを抜いた。抜かれた瞬間、また一筋涙がこぼれた。
(略)
「何て呼べばいいの?」
「キヅキでいいよ」
こういう、普通のカップルならあるはずの会話が、アマと私にはなかった。だから、思い残す事がたくさんあるのかもしれない。もっと、普通の会話をすれば良かった。家族の話とか、過去の話とか、名前とか、歳とか。そう、葬式の時初めて知った。アマは十八歳だったって事。
私は、生まれて初めて年下の男と付き合っていた事を、彼が死んでから知った。私は十九歳で、アマの一個年上だった。そんな事、出会ったその日に話すべきだったのだ。
(略)
ピアスを見ていたら、アマの事が頭に浮かんだ。あれからというもの、舌の痛みもおさまってきたというのに、私は舌ピを拡張する気になれない。褒めてくれる人もいない今、私の舌ピは意味を持たないのだろうか。もしかしたら、私はアマが言っていたように、アマと同じ気持ちを共有したくてスプリットタンを目指していたのかもしれない。後一つ拡張すれば、アマがメスを入れた00Gになる。00Gにしたら切ろうと思っていたっていうのに、後一歩のところで私の抑えきれない程の熱意はなくなってしまった。
アマも熱意もなくなってしまった今、この舌ピに一体何の意味があるんだろう。
私はまたカウンターに戻ってパイプ椅子に座るとボンヤリ宙を見つめた。何もする気がない。
何かをする事にも、それで何かが動くという事にも、今の私は関心がない。
「ルイ、お前の名前、聞いてもいいか?」
「聞きたいの?」
「聞きたいから聞いてるんだろ」
「私のルイはルイ・ヴィトンの・・・」
「本名を聞いてるの」
「・・・中沢ルイ」>>

*映画「蛇にピアス」予告編YouTube http://www.youtube.com/watch?v=Qa4K02yQp8w
posted by y.s at 23:41| Comment(0) | 東京北西部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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