飛田遊郭の「御園楼」・・・東京都心部なら戦前の詳細住宅地図がほぼそろっており、苦労することなく場所を特定できるのだが、戦前の詳細地図が大幅に欠落している大阪では少々回り道をすることになる。旧住居表示の地図と、電話番号簿から「御園楼」の住所を探し出して付き合わせをする作業が必要となるのだ。西区西長堀の大阪市立図書館3階で一挙に問題は解決できた。相談カウンターで戦前の電話番号簿(貴重資料のため持ち出し不可・コピー禁止)を依頼し、同フロアの地図棚(合併前の南区・東区の専用地図棚が有る)で該当する旧表示の地図を探し出す。ページを繰るのも慎重になりほど古い電話番号簿は一部傷んでいる、。
<<「大阪市及近郊電話番號簿」昭和十三年四月一日現在>>
掲載はイロハ順になっており、707頁目の最下段に「御園楼」(同名称は他に無し)が載っていた。
<<御園樓 戎76ー0588 住、山王、四ノ二三 貸座敷>>
分かりやすく表記すると、<<御園楼 電話 戎局76−0588 住吉区山王4−23 (業種)貸座敷>>
予審尋問調書によると、阿部定は、1927年(昭和2年)の正月から大阪西成区にある飛田遊郭「御園楼」に、前借金2800円(連判者は父親の重吉)ほどで契約し、約1年間、娼妓として住み込みで働く。その後、同じ大阪の朝日席で約半年間働いている。1929年(昭和4年)1月には満年齢で23才。調書では「翌年早々、23歳の時名古屋市西区羽衣町の徳栄楼に前借二千六百円くらいで住み替えました」とあるが、ちぐはぐになるので、翌年早々を「1929年(昭和4年)1月」と考えます。
阿部定は、この大阪飛田の一流店で「売れて三枚とは下らず可愛がられ」、「客を相手にするのが厭ではなく面白く働きました」と調書に述べ、「一年ぐらい経った頃、ある会社員の客が私を落籍してくれることになりましたところ、その人の部下も私の客であることが判ったため、落籍の話は駄目になり、客から堪忍してくれと云われ、お金をもらったことがありました。」と身請け話があったことを語っている。
参考 「阿部定手記」1998年刊 中公文庫
「大阪市及近郊電話番號簿」昭和13年版
阿部定リンク
「上野 阿部定の足跡 坂本町の長屋跡」http://zassha.seesaa.net/article/312996652.html
「兵庫・篠山市 阿部定の足跡 京口新地」http://zassha.seesaa.net/article/313095541.html
「名古屋 阿部定の足跡 中村遊郭」http://zassha.seesaa.net/article/313453094.html
「神田 阿部定の足跡 出生地と小学校」http://zassha.seesaa.net/article/313356355.html
「上野 阿部定の足跡 星菊水」http://zassha.seesaa.net/article/312979470.html
「日本橋浜町 阿部定の足跡 浜町公園」http://zassha.seesaa.net/article/316491763.html
「大津 阿部定の足跡 地蔵寺」http://zassha.seesaa.net/article/316571479.html
「浅草 阿部定の足跡 百万弗劇場」http://zassha.seesaa.net/article/319694968.html
「渋谷 円山町 阿部定の足跡 待合みつわ跡」http://zassha.seesaa.net/article/328923946.html
「宇治 阿部定の足跡 菊屋旅館跡」http://zassha.seesaa.net/article/381905711.html
【関連する記事】
- 大阪 楞厳寺 織田作之助の墓 太宰治「織田君の死」・吉村正一郎「織田作の墓」より..
- 大阪 大坂城天守前広場の作家・海音寺潮五郎 井伏鱒二「入隊當日のこと」より
- 大阪北浜 淀屋橋 落語「雁風呂」六代目三遊亭圓生より
- 大阪・釜ヶ崎 三角公園 野坂昭如「マッチ売りの少女」より
- 大阪船場・御霊神社 御霊文楽座 谷崎潤一郎「青春物語」より
- 大阪西成 映画「太陽の墓場」(大島渚監督)釜ヶ崎ドヤ街ロケ
- 大阪天満 川端康成生誕地 短編「葬式の名人」より
- 大阪難波 一芳亭のしゅうまい 吉本ばなな「ヨシモトバナナコム2」より
- 大阪南 旅館(待合)千福とカフエ・ユニオン 谷崎潤一郎「芥川龍之介が結ぶの神」よ..
- 大阪 大坂冬の陣 真田出丸
- 大阪 通天閣 川上弘美「ニシノユキヒコの恋と冒険」から
- 大阪 かやくめし「大黒」 小津安二郎の「手帖」から
- 大阪 宗右衛門町界隈 池波正太郎「大阪ところどころ」より
- 大阪 天保山 日本一低い山の座譲る
- 大阪 菓子司 鶴屋八幡本店 小津安二郎の「手帖」から
- 大阪 美々卯本店 小津安二郎の日記から
- 大阪 道頓堀 いづもや 織田作之助「夫婦善哉」より
- 大阪 木の實 織田作之助の短編「大阪発見」から
- 大阪 山内法律特許事務所(近代建築)
- 大阪 江戸焼うなぎ 菱冨 小津安二郎の日記から