水上勉「吉行さん追悼」から 「水上勉全集第16巻」中央公論社1996年刊
吉行淳之介は、1994年(平成6年)7月26日に亡くなった。享年70歳。母あぐり、宮城まり子、阿川弘之らに看取られて息を引き取った。遺言で葬儀・告別式は行われなかった。
<<吉行和子 七月の始めにお医者様が「あと一ヵ月半ですよ」っておっしゃって、それで七月二十六日に死んじゃったんですよ。「やっぱり癌だったのか。もうやめた」って思ったんじゃないかな。>>
「対談・吉行和子x向田邦子」より抜粋 「吉行淳之介をめぐる17の物語」2002年刊
1992年(平成4年)、C型肝炎が原因の肝臓癌と診断されたが、肝臓癌であることは同居人・宮城まり子と妹・吉行和子が相談した結果、本人と他の家族には知らせないことに決していた。
芥川賞作家・吉行淳之介は、1986年(昭和61年)11月に面白い賞を受けている。「第1回パチンコ文化賞」だ。吉行淳之介エッセイ選「街角の煙草屋までの旅」(講談社文芸文庫)に収められた一篇「パチンコ雑話」から抜粋。
<<この場所に住みはじめて五年になるが、門を出て坂道を下り五分ほど右へ歩くと多摩川の河原に出る。その反対に、左へ坂道を登って同じ時間歩くとパチンコ屋に着く。ところが、ずっと病気がちだったので、ぶらりと散歩という気分が起こってきたのは今年になってからである。そこで、門を出て左へ坂道を登ることが、しばしば起るようになった。つまり、パチンコ屋へ行くわけである。>>
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左写真左側の大きな樹木は、住み始めて10年後にやっと公園だと気付いた場所。エッセイ「みどり色の板の道」に書かれている。
<<ここに引越して、はやいもので二十年になってしまった。世田谷上野毛の稲荷坂の途中の家である。
すぐ前が坂道で、かなり急な勾配を上りはじめると、隣家のとなりが神社、さらにそのとなりに途方もなく大きな石垣がそそり立って、およそ五十メートルほど坂の上までつつく。ここには二十五年ほど前、美空ひばりが小林旭と住んでいた。
向い側は、坂の上の蕎麦屋から坂の下まで背の低い石垣がつづいて、人家はない。この石垣の向う側も個人の広大な宅地だとおもっていたが、そこがじつは公園だと知ったのは十年経ってからである。さっそく眼の前の道を横切って、向う側に入り込むと、そこが公園の入口であった。『鳥獣捕獲禁止』という札が出ていた。公園といっても、樹木が雑然と生えている山の斜面という感じで、地面を歩くことはできない。手摺(てすり)の付いた細い坂の道が、何本にも別れて奥のほうへ伸びている。すべて緑に塗ってあるその色が、褪(あ)せていた。坂の上へ伸びている板の道も一つあって、そこを上ってゆくと、きれいに整備された平たいスペースに出た。その中央に辛夷(こぶし)の巨木があり、桜の木もたくさんあった。季節は春で、辛夷はたくさん花をつけていた。そのスペースにも、ほとんど人影がなかった。私はこの緑色の坂の連なりが気に入ったが、年とともに上ると息切れがするようになった。>>
「みどり色の板の道」より抜粋 「小説現代」昭和62年1月号初出
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<<茶色の運動靴を素足につっかけて、ズボンとシャツ姿で出かける。テレビには出ないことにしているので、さいわい顔は知られていない>>
吉行淳之介リンク
「岡山 作家・吉行淳之介の墓」http://zassha.seesaa.net/article/346550974.html
「北青山 特法寺 吉行家の墓地」http://zassha.seesaa.net/article/312370517.html
「市ヶ谷 あぐり美容室(閉店)」http://zassha.seesaa.net/article/17595273.html
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