2014年02月25日

本郷 鐙坂から御茶の水橋に 樋口一葉「日記」より

明治24年10月15日夜、本郷菊坂の借家(菊坂町70番)から樋口一葉一家(母子三人)はそろって「きょう開橋」した御茶の水橋の見物に出かける。
「蓬生日記」の10月17日の記述の後の部分に書き込まれている10月15日の詩篇ともいえる一節を抜粋。
<今宵は旧菊月十五日なり。空はたゞみ渡す限り雲もなくて、くずの葉のうらめづらしき夜也。「いでや、お茶の水橋の開橋になりためるを、行きみんは」など国子(*妹の邦子)にいざなはれて、母君も「みてこ」などの給ふに、家をばでぬ。あぶみ坂登りはつる頃、月さしのぼりぬ。軒ばもつちも、たゞ霜のふりたる様にて、空はいまださむからず、袖にともなふぞ行々て橋のほとりに出ぬ。>
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菊坂の借家の玄関を出て左に曲り 井戸の前を通ると南西側の外に出る石段になる (左写真)一葉の70番の借家は右フェンスの先を右に折れた右側 左端のポンプ式井戸は当時はからから(滑車)と手で桶をたぐり上げる「つるべ井戸」であった
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鐙(あぶみ)坂方向に抜け出られる石段 (右写真)石段上の木戸
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鐙(あぶみ)坂 坂名の由来は単純に鐙の形に似ていることから(鐙の製造に携わる子孫の住居があったからとの説も)右の石積み側は上野(群馬)高崎藩6万2千石の松平右京亮の中屋敷の跡地で右京山と呼ばれていた 一葉母子は月明かりの中 この坂道をお茶の水橋を目指して上っていった  *菊坂周辺の撮影は2005年

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昭和6年に架け替えられた現在の御茶ノ水橋(開橋当時とは構造が異なる 右の初代の絵葉書写真参照) 一葉母子が開橋した日の夜に訪れた時は未だ鉄道は走っていない 御茶ノ水停車場が完成し電化鉄道が開通するのは13年後(明治37年の大晦日に開通) 右の絵葉書の画像は鉄道開通後の明治44年のもの ホーム・駅舎とも現在とは反対側の新宿寄りに設置されていた
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当時は未だ架橋されていなかった聖橋から見た御茶ノ水橋(2代目は昭和6年5月に完成)
一葉の10月15日の日記の続き
<するが台のいとひきくみゆるもおかし。月遠しろく水を照して、行かふ舟の火(ほ)かげもをかし、金波銀波こもごもよせて、くだけてはまどかるるかげ、いとをかし。森はさかさまにかげをうかべて、水の上に計一村(はかりひとむら)の雲かゝれるもよし。薄霧立まよひて遠方(をちかた)はいとほのかなるに、電気のともし火かすかにみゆるもをかし。(略) するが台より太田姫いなりの坂を下りてくるほど、下よりのぼりくる若人の四(よ)たり計(ばかり)、・・・(略)>
実は、樋口一葉の描写と同じく夜の水面のきらめきを撮ったのだが、ほぼ真っ暗・・2007年〜2009年撮影分の昼の写真を差し替えずに使用。一葉母子は御茶の水橋を渡った後、紅梅河岸(紅梅町からの呼称)と呼ばれた駿河台側の道を昌平橋方向に坂を下ってゆく。一葉は<太田姫いなりの坂>と描写しているが、太田姫稲荷神社は 現在は駿河台下方向に遷座しており存在していない。
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太田姫稲荷の神木だった椋(むく)の木のみが残っている 一葉が昌平橋方向に下った坂は淡路坂(江戸嘉永年間の切絵図に石段付きで書かれている) 神社にちなみ一口(いもあらい)坂の別称もある 天然痘(疱瘡)の治癒(いも=潰瘍の意)に霊験があることからの坂名(太田姫稲荷の古社名は一口稲荷神社)
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(左写真)椋の木の箱におかれた「御守」 上段写真の椋の木の横に御茶ノ水駅の臨時改札口が設置されているが 昭和6年の総武線拡張工事により神社は立退くことになった 遷座先は南方向に本郷通りを下って右に入った所(神田駿河台1丁目2番)
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一葉と視線を合わせたかもしれない白キツネ
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一葉ら母子が中天に差しかかる月光に照らされて坂下に消え去ってゆく 樋口夏子19歳の秋

参考
「樋口一葉全集第三巻日記編」小学館1979年刊
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posted by y.s at 10:25| Comment(0) | 東京東南部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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