小津安二郎は、この日の午前中から荷造りを始め、午後2時52分の横浜駅発「第2こだま」に乗車する。松竹大船の監督である小津が、東宝(宝塚映画製作)から招聘されて、「小早川家の秋」のメガホンをとるためだ。「日記」は<大阪9時着 車にて宝塚門樋泊>と続く。
*「門樋」は撮影期間中に逗留した旅館名
翌日の日記から <6月9日(金曜)小雨 車が十一時にくる 池田の小林逸翁美術館を見学して 池田から十三(じゅうそう=地名) 十三から神戸 ユーハイムにて珈琲 西灘を見て 三宮 宝塚に帰る 牛肉美味 北川 大阪つる家から電話あり 入梅に入つた模様也> P714
小津は翌日から早速、関西圏のロケハンを開始する。神戸のユーハイムに立ち寄ったのは、この日のスケジュールからして午後であることは確実だろう。現在、ユーハイムは元町商店街に本店があるが、小津が訪れた当時は生田区下山手通2丁目(旧表示=1980年より中央区)に洋館の店舗を構えていた。ユーハイムの創業以来の歴史は同店のHPに詳細が掲載(洋館の画像も有り)されているので参照http://www.juchheim.co.jp/して下さい(会社情報の中に社史有り)。
小津が残した住所録風の手帖にユーハイムの住所が記載されているので引用。
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神戸スペイン料理カルメン
坂(阪の意)急三宮西口を北に入る
フラメンカ・エッグ
出雲大社町 荒木屋
割子ソバ
ユーハイム
神戸市生田区下山手通二ノ五
バウムクーヘン
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「日記」には<ユーハイムにて珈琲>だが、手帖には<バウムクーヘン>。1919年に日本で初めてのバウムクーヘンを焼いたユーハイムを訪れたなら、小津もコーヒーとともにバウムクーヘンを賞味していたはず。
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営業時間10時〜20時(1階売り場) B1レストラン・2Fティールームの営業時間は要確認
定休日 第3水曜日
「ユーハイム」の商品が小道具として登場する小津作品2本。最初に「小早川家の秋」宝塚映画1961年10月29日公開の1シーンから。この作品の撮影準備中(ロケハン)にユーハイム本店を訪れていた。
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手帖に並記されている「スペイン料理カルメン」(元町駅から1つ大阪寄りの三宮駅が最寄り)の写真を追加
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参考
「全日記 小津安二郎」フィルムアート社1993年刊
「小津安二郎 東京グルメ案内」朝日文庫(巻末付録「グルメ手帖」)