<「これが橘の小島」と申して、しばらく舟人が棹を突きさしてお舟を留めたあたりを御覧になりますと、大きな岩のような形に、洒落た常盤木(ときわぎ)がこんもりと繁っています。「あれを御覧なさい。まことにはかない木ですけれども、あの、千年(ちとせ)も変わらない緑の色の深いことを」と仰せなされて、
年ふともかはらんものか橘の こじまのさきに契るこころは
女も、何だか珍しい旅に出たような心地して、
たちばなの小島はいろも変わらじを この浮舟ぞゆくへ知られぬ >
谷崎潤一郎訳「源氏物語 巻五」「浮舟」より
匂宮は、浮舟を宇治川の橘の小島を舟から見せたあと、対岸(平等院側)の隠れ家へと自ら抱きかかえて誘う。宮は浮舟の衣を脱がしほっそりとした体つきを愛らしく思い、打ち解けてゆく。その後、二人は宇治川のせせらぎを聴きながら二夜の愛に溺れてゆく。
「源氏物語」の舞台を桜色に染めるこの季節に訪れることは、心まで華やかになります。「浮舟」のような女性がかたわらにいたなら・・・
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