1994年、高円寺を拠点にしてパフォーマンス集団「東京ガガガ」を結成、その集団を率いて都内各地で街頭演劇的なパフォーマンスを繰り広げる。翌年、「東京ガガガ」の活動は頂点をむかえるが、終息も早かった。この間の「うらぶれた青春の遍歴」を園子温自らがエッセイ「孤独な怪獣」で述べている。

高円寺での園子温監督作品「ひそひそ星」パブリシティ現場。高円寺にはガガガがよく似あう。
<<中央線沿線に住んでいた頃はやけくそだった。その中でも、高円寺に住んでいた時代は、格別にヤケクソだった。八十年代の終わりの頃。あっという間に二十代が過ぎて、三十代にさしかかっても、まだ映画監督になれるチャンスなどなく、その気配もなく、「さあて今日、どこかへ行こう」と思いつくもその金もなく、金の入る気配もなく、つまり俺にはその頃、何にもなかった。
中央線沿線を上り列車で通過する各駅停車の駅名を読み上げていくと、俺のくだらない青春時代を走馬灯のように回想するハメになる。
長い日本列島縦断放浪の末、二十二才で大学に入った年に正式に東京に引っ越した。最初の最寄駅は、西荻窪駅だった。一年間、西荻窪に住んだ。西荻窪で二回引っ越している。大学中退。くすぶり始めた青春。次が荻窪駅。くすぶりまくる青春。そのあと阿佐ヶ谷駅ときて、ついに聖地、高円寺に辿り着く。
その頃俺はもう立派に青春をこじらせて完壁なダメ人間に成長を遂げていた。ダメ人間の終着駅、それが燦然と輝く高円寺駅だった。略)>>

高円寺駅南口前の噴水広場。
<<そこに住む奴はみんな似た者同士だし、何しょうが、どうせお互い様って思ってたから。当時、高円寺というぬるま湯につかって暮らしている俺達はどっぷりとこの町に甘え切って、最低の生き方をしていたと思う。俺達はだから、高円寺から出たがらなかった。高円寺から一歩外に出ると、地球は暗くて寒くてつらい。現実的すぎる。偶然、鏡を見てしまって呆然(ぼうぜん)と突っ立っている野良猫が、自分の姿に驚くように、見たくもない自分を知るハメになる。
そうだ、俺たちにとって下北沢なんてオシャレすぎる。原宿はまぶしすぎる。渋谷は軽すぎる。われら貧乏人の反吐(へど)や涙の土砂をのせて中央線上り列車で行く最高の賛沢は新宿駅に降り立つ事だった。最も豪華な駅が新宿。だから、そこはたまにしか行かない。なぜってお金がないから。金がある時に勇気をふりしぼって、ネオン輝くあこがれの町、ネオン輝く新宿の巨大居酒屋で豪華に飲むのだ。ビールをおかわりしてしまうのだ。常日頃は、もちろん高円寺のそのへんで飲む。そのへんとは、高円寺駅前の噴水広場のあたりのそのへん。そのへんで地べたにしゃがみこんで飲むのもいいし、金のありそうな(といってもせいぜい二、三千円だが)そのへんの若者にたかって、そいつのおごりで、そのへんの部屋でオールするもよし。そのへんの女をナンバして、「飲ませて! やらしてあげるから」などという不条理なナンバも、高円寺では不思議と許された。そんな時、いつだって高円寺のおおらかな女たちはちょっと困って笑いつつも優しく「いいわよ」と部屋に入れてくれた。彼女の家の彼女の冷蔵庫から彼女のビールを何本も支給してくれたし、しまいには彼女の体もくれた。何てありがたき高円寺。我々の聖地だったんだ!!(略)>>

<<今日、久しぶりに高円寺を歩いたばかりだ。二〇一五年型の高円寺は、味のない綺麗な普通の町に見えた。あの頃の高円寺で見かけた尻軽の、途方に暮れた貧乏人に施す素敵な尼さんのような女はもう見当たらない。>>
大資本が次々と資金を供給する人気監督となった園子温氏は、現住、当時の高円寺とやや似た顔をもつJR大塚駅近くに拠点を構えている(連絡事務所だけか?)。フィルモグラフィーは憶えきれないほど数多くの作品が居並んでいるが、いまだに執心する作品「うつしみ」(1999年)を凌駕する一本は見いだせないでいる。「うつしみ」は園子温の「気狂いピエロ」なのだ。
「うつしみ」の渋谷円山町ロケ現場(廃虚のアパートに女子高生役澤田由紀子がパンツをみせながら金網を乗り越えるシーン)から1枚。

フェンスを乗り越えて入り込んだアパートは解体され、跡地にはツタのからまる人気カジュアルブランドの建物(galaxxxy本店)が建っている。金網は当時のままだ。
参考:「園子温 悪魔のDNA」2013年祥伝社刊
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