詩篇「人力飛行機のための演説草案」
おれは自分を飛ばすことにばかり
熱中している一台のグライダーだった
麦は水の中でも育った
鳥が翼で重量を支えていられるのは ある速度で空気中をすすむときに
まわりの空気が抵抗で揚力をおよぼし
それが鳥のさびしさと釣合うからだ
おれはアパートの陽あたりのわるい十一月の壁に 鳥のように羽ばたいて飛ぶ オーニソプブ
ターの設計図を記述した
(略)
寺山修司詩集「ロング・グッドバイ」から
詩篇「飛行機よ」
翼が鳥をつくったのではない
鳥が翼をつくったのである
少年は考える
言葉でじぶんの翼をつくることを
だが
大空はあまりにも広く
言葉はあまりにもみすぼらしい
少年は考える
想像力でじぶんの翼をつくることを
いちばん小さな雲に腰かけて
うすよごれた地上を見下ろすと
ため息ばかり
少年は考える
リリエンタールの人力飛行機
両手をひろげてのぽったビルディングの屋上に
忘却の薄暮がおしよせる
せめて
墜落ならばできるのだ
翼がなくても墜ちられるから
ああ
飛行機
飛行機
ぼくが
世界でいちばん
孤独な日に
おまえはゆったりと
夢の重さと釣合いながら
空に浮かんでいる
「寺山修司少女詩集」から
*撮影は2007年。
各詩篇は「寺山修司全詩歌句」1986年思潮社より抜萃。
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