恐山。吹き抜ける風に乗って死児たちの合唱が大きく小さく流れ來る。
<<恐山へ向かう山道
馬車に積まれた女の死体が、橋を渡ってゆく。死体は馬車から半分ずり落ちて、
髪の毛が地に引き摺られてゆく。
三途の川を渡ると、橋の向こうは恐山地獄だ。からすが群れている。
馬車の後ろから、学生帽の一人の少年が、風呂敷に包んだ遺品を抱いて、泣きながら蹝(つ)いてゆく。
亡き母の真赤な櫛(くし)を埋めにゆく恐山には風吹くばかり
恐山の霊場
荒涼とした恐山の霊場の本堂正面。死児たちの合唱「こどもぼさつ」
さいのかわらにあつまりし みづこ まびきこ めくらのこ
てあしはいわにすりただれ なきなきいしをはこぶなり
ゆびよりいずる ちのしづく
みうちをあけに そめなして
ちちうえこひし ははこひし よんでくるしくさけぶなり
ああ そはぢごく こどもぢごくの あ――
かって(遠い昔、TVロケで)恐山を訪れた際、長逗留した旅館(花水館)。JR大湊駅周辺を検索したが見つけ出せない。さらに下北半島の奥地であったか。記憶が薄れている。
サーカスの天幕小屋
少年、楽屋の裏にそっとまわりこむ。中から、ふくみ笑いのようなのがきこえてくる。
少年、立ち止まつて、そっとゴザをめくって見ると、中で蛇遣いの女と黒メガネの男が、
全裸で、立ったままからみあっている。
少年、ハッとしてゴザをおろす。
少年「地獄だ!」と言うなり、一目散に逃げ出す。
濁流に捨て来し燃ゆる曼珠沙華あかきを何の生贅とせむ
古き時代(1977年頃)のJR大湊駅。右後方の大きな山が、霊場恐山。*曼珠沙華は合成
恐山に置かれた仏壇。時が過ぎてゆく。
少年の家の中。私と母親、向き合って二十年前と同じように御飯を食べている。
私と目が合うと、母親、満足そうに、にっと笑う。
私「(声)どこからでもやり直しはできるだろう。母だけではなく、私さえも、
私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎないのだから。そしてこれは、たかが映画なのだから。
だが、たかが映画の中でさえ、たった一人の母も殺せない私自身とは、いったいだれなのだ!?
生年月日、昭和四十九年十二月十日。本籍地、東京都新宿区新宿字(あざ)恐山!!」 >>
映画「田園に死す」台本より(1974年公開)。
「寺山修司全シナリオ1」1993年フィルムアート社より抜萃。
寺山修司リンク
渋谷 寺山修司住居侵入事件現場(再開発・更地)http://zassha.seesaa.net/article/322512179.html
三田 人力飛行機舎跡 寺山修司少女詩集からhttp://zassha.seesaa.net/article/459609007.html
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